1943年カナーが「情緒的交流の自閉的障害」という論文を発表したことに始まります。
いわゆるカナータイプの自閉症だけではなく、ウィングが1981年にアスペルガーの研究を再評価して、知的障害や言語発達の遅れのない、社会性の障害とコミュニケーションの障害を中心とする患者群をASD(自閉スペクトラム症)の範疇に納めました。
ウィングの3徴①社会的相互関係の障害②コミュニケーションの障害③想像力の障害はDSM(米国精神医学会の診断基準)に反映されました。
2013年DSMが改訂されました。それにより3徴から「対人コミュニケーション」と「限局した興味と反復行動」の2徴になり感覚とカタトニアの採用、ADHDとの併記が可能になるなどの変更がありました。
ADHDとの併記が可能になったことをきっかけに発達特性は濃淡をもって複数併存しているケースが多いことに気づかされています。発達特性をもつ方は十人十色です。
例えば、自閉スペクトラム症にADHDが併存すると、ADHDの方は飽きっぽいところがあるので、こだわりが目立たなくなることがあります。複数の特性があると一方がみえにくくなるという一例です。
当クリニックで自閉スペクラム症の診断補助にADOS−2などの心理検査を用います。
診断をするということには
①罪悪感からの解放
②自己理解の切り口を得る
③周囲に困難を相談することができる
④周囲からの理解、公的なサポートが得られる
などのメリットがあります。
一方で、社会的なスティグマ(注1)およびセルフスティグマ(注2)があり、すぐには受け入れることができなかったり、ショックを受ける方もいます。
①「一生治らない」との思い
②努力の放棄
③症状消失への拘泥
④周囲からの偏見
などの問題が生じる場合もあります。
(注1)社会的スティグマ
自閉スペクトラム症(ASD)をはじめとする発達障害のある人々は、誤解や偏見のために社会的な排除や不平等に直面することが多いです。このスティグマは、彼らが適切な支援を受けることや、安心して社会に参加することを難しくしています。
(注2)セルフスティグマ
セルフスティグマ(自己スティグマ)とは、自分自身が持つ特定の特徴や状態(例えば病気、障害、社会的な状況など)に対して、自らネガティブな偏見や否定的な価値観を持つことを指します。自己評価の低下、社会的孤立、メンタルへの悪影響、支援の利用回避などにつながる可能性があります。
発達障害 ≠ 不適応、生きづらさ、自分をよく知ることが、自分を活かすことにつながる
まずは自己理解を深めることが大事です。
発達障害支援者のための標準テキスト 自己理解 岡田俊 図表4 発達障害に対する理解のパラダイムシフトには以下のように書かれています。
発達障害 ≠ 不得意、苦手なこと
発達障害 ≠ 不適応、生きづらさ
↓
発達障害=得手・不得手が大
発達障害=自分をよく知ることが自分を活かすためにより大切な人たち
自分の得手、不得手を知ることにはじまり、自分をよく知ることが、自分を活かすことにつながります。
構造化とはTEACCH(注3)プログラムで取り入れられた考え方です。
構造化とは、活動や環境を予測可能にし、明確なルールや順序を設定することです。これにより、ASD(自閉スペクトラム症)の方が不安を減らし、効率よくタスクに取り組めるようになります。以下のような要素が構造化に含まれます。
(注3)TEACCH
TEACCH(ティーチ)プログラムとは、自閉スペクトラム症の人々を支援するために開発された包括的な教育プログラムです。このプログラムは、1960年代後半にアメリカ・ノースカロライナ大学で始められたもので、現在も世界中で幅広く用いられています。
- 視覚的支援:スケジュール表やチェックリストなど、視覚的に見て理解できるものを用意します。
- 明確なルーチン:毎日の流れを固定化し、同じ順番で活動を行うことで、日々の生活に安心感をもたらします。
- 空間の分割:それぞれの活動に適した場所を決め、その場所で行うことがわかるようにします。例えば、勉強するスペースやリラックスするスペースを分けると、活動ごとに環境の変化を感じやすくなります。
- 目標や期待の明示:何を達成する必要があるか、どんな行動が求められているかを明確に伝えます。「これが終わったら次に何をするか」がわかると、達成感や満足感が得られます
神田橋先生の「問題行動は適応行動」とする考え方では、一見「問題」と見える行動も、その人なりの環境への適応の一部と見なされます。
例えば 貧乏ゆすりー筋肉のリズミカルな運動で、ストレスを発散していると考える→ウオーキングなどに取り組む
大声をあげる、ため息をするー悪い「気」を吐いていると考える→深呼吸、一人カラオケなど
ひきこもりーひきこもっていることで安心する→決まった時間、ひきこもる時間を構造化する。
ASDに特徴的な思考や行動のパターンは、一般的な社会では時に「適応が難しい」と見られることもありますが、それらが適切な環境や役割に活かされると、むしろ大きな強みとなります。
ASD(自閉スペクトラム症)には、短所と長所が裏表の関係にあるとよく言われます。短所と感じられる特徴も、別の視点から見れば長所にもなり得るのです。具体的にどのような点があるか、いくつか例を挙げてみましょう。
1.詳細へのこだわり
o短所: 細部に集中しすぎて、全体の流れや状況を見失ってしまうことがある。
o長所: 細かいところまで気を配れるので、精密な作業やデータ分析などに向いている。
2.高い集中力
o短所: 興味のないことや予測しにくい変化には、集中しづらいことがある。
o長所: 興味のあることに対しては、他の人が真似できないほどの集中力を発揮できる。
3.誠実で正直
o短所: 社交辞令や暗黙のルールを理解するのが難しく、誤解されやすい場合がある。
o長所: 素直で、正直な人柄として信頼を得やすい。
4.独自の視点
o短所: 他の人とは異なる視点や考え方が、周囲に理解されにくいことがある。
o長所: 創造性や独創性があり、斬新なアイデアを生み出すことができる。
5.ルーチンへのこだわり
o短所: 予定外の出来事に対応するのが苦手で、変化に対してストレスを感じやすい。
o長所: 規則的で、予定通りの行動をしっかり守るため、信頼されやすい。
近年、神経多様性(ニューロダイバーシティ)という考えが出てきました。特性があることがただちに「障害」を意味するわけではなく、環境との兼ね合いが重要です。発達障害という言葉がありますが、生活障害と考えるのがよいのではないかと考えています。自己理解とともに環境の調整が重要です。
ASDにはセットシフティング(認知の柔軟性)の問題によって生じうる白黒思考やセントラルコーヒレンス(中枢性統合)の弱さからくる「木をみて森をみず」の考え方をしていることがあり、そのことによって生活がつらくなっている場合には、そのことについて話し合うことがあります。
過剰適応、カモフラジューなどのために疲労が強い場合は、コーピング(ストレスの対処法)について検討するのもよいと思います。セルフモニターが苦手な方が多いので、生活に支障がくるまで頑張っている方がいます。
中核症状に効く薬はありせんが、リスペリドンやアリピプラゾールが刺激性軽減に効果的で、漢方薬の抑肝散 四物湯(しもつとう)と桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)の組み合わせがタイムスリップ現象(注4)に効果がある場合があります。
(注4)
タイムスリップ現象は、精神科医の杉山登志郎氏が1994年に提唱した概念で、自閉スペクトラム症(ASD)の方々に見られる特異な記憶想起現象を指します。 具体的には、ASDの幼児や青年が、過去の出来事を突然鮮明に思い出し、まるで現在の出来事のように感じ、情動や行動が喚起される現象です。
当クリニックでは、ASD向けに自己理解を深め、新しいスキルを学ぶために令和7年1月よりASD(自閉スペクトラム症)を対象としたショートケアプログラムを実施します。このプログラムは、対人コミュニケーションのスキル向上や生活スキルの獲得、集団行動の経験を目的としています。 具体的なプログラム内容として、心理教育、コミュニケーションプログラム、ディスカッションなどが含まれ、全20回で構成されています。 (昭和医大発達障害研究所で開発された、厚生労働省推薦の発達障害者の方向けの専門プログラムを実施します)
これにより、ASDの方が自分の特性をより理解し、より豊かな日常生活が送れるよう支援を行います。
発達障害は治りますか 神田橋條治
おとなの自閉スペトラム症 本田秀夫 監修 大島郁美 編 自閉スペクトラムのパーソナリティ 青木省三 018〜026
発達障害者支援者のための標準テキスト 自己理解 岡田俊 237―246