大人のADHD(確認用)|東京都中野区東中野の精神科・神経科・心療内科

後藤クリニック

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大人のADHD(確認用)

大人のADHDとは

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ADHD(注意欠如・多動症)とは、不注意、多動性、衝動性を特徴とし、小児期にみられる症状が成人になっても継続的にみられることが明らかになり、2013年になって初めてADHDはDSM-5において新設された神経発達症群に位置付けられました。
今までより診断基準が緩和され成人期のADHD診断が容易になりました。

それまでADHDは
①DSM―IVでもICD−10の分類でも発達障害のカテゴリーに分類されず、行動障害に分類され、行為障害や反抗挑戦症(いわゆる非行)と同じカテゴリーに分類され、②広汎性発達障害(ASD)と併存した場合はADHDの診断はつかず、広汎性発達障害のみの診断になり、③発達障害のなかで唯一薬物療法が有効である点で他の発達障害と一線を画していました。
ADHD有病率はWHO(世界保健機構)が推定では3.4%で決して珍しいものではありません。

大人のADHDには、
①子供時代にADHDと診断され大人になっても症状が持続する場合
②特性はあったものの大人になって気づかれた場合
があります。
またADHDには自閉スペクトラム症などの神経発達症、うつ病、不安症、双極性障害、依存症など併存疾患が多いことが知られそれらが複数みられることも少なくありません。

ADHDに原因についてはっきりしたことはわかっていませんが、トリプルパスウェイモデルが知られています。実行機能(注意の持続、集中、計画を立てるなどの困難、優先順位をつけたり、複数のタスクを同時に処理することが困難、ワーキングメモリーや認知柔軟性の低下など)の障害、時間処理の障害(時間の見積もりが苦手、長期的な計画が苦手、タスクに没頭して時間を忘れる、時間の流れを意識できない)、遅延報酬の障害(たとえば、次のような選択を迫られたとします。今すぐ100円もらえる。1時間後に1,000円もらえる。遅延報酬の障害がある人は、1時間後にもっと大きな報酬があると分かっていても、「待つ」ことがとても苦手で、今すぐ手に入る100円を選んでしまいがちです。)このモデルは、ADHDが単一の原因ではなく、複数の経路から生じる可能性があることを示唆しています。また、それぞれの経路は独立している場合もあれば、重なり合うこともあり、個々の患者の症状が異なる理由を説明します。
現在は、脳機能の障害仮説からデフォルトモードの切り替え困難など神経ネット機能の障害仮説にすすんでいます。

ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質が関与していることは確かです。

ADHDの症状

ADHDの症状は、不注意と多動性・衝動性に分けられます。ADHD症状は小児期から始まり成人するにつれて衝動性が減り、不注意などが優勢になってきます。

不注意

  • ケアレスミスが多い
  • 1つのことに集中できず、すぐ気が散ってしまう
  • 人の話を聞いていないとよく怒られる
  • 仕事や作業を順序立てて行うことが苦手
  • 約束や締め切りを守れない
  • 片づけるのが苦手
  • 忘れ物・なくし物が多い

多動性および衝動性

  • すぐに貧乏ゆすりなどの目的のない動きをしてしまう
  • 長時間じっとしているのが苦手
  • 思ったことをすぐに口に出してしまう
  • 衝動買いをよくしてしまう
  • 順番待ちが苦手
  • 他人のしていることによく口出ししてしまう

症例① Aさん 33歳男性会社員の場合

Aさんのある日の1日です。会議中、空調や椅子の音が気になって話の内容に集中できず、上司に落ち着きがないと注意されました。午後、書類の書き間違いにより発注ミスが発覚しましたが、同様のミスを先週も犯しており、上司にこっぴどく説教されました。さらに怒られている最中も、ふと目に留まった床のしみが気になってしまい、話を聞いていないとさらに怒られてしまいます。最近では、バイトの学生にまでバカにされており、自分のことを生きてる価値のないダメ人間だと考えていました。

Aさんに子供時代のことを聞いてみると忘れ物が多く、教師からは「またか」と叱責されたり、授業中にも落ち着きがなく集中できず、私語をして注意されたりしていたとのエピソードがありました。

【治療結果】

まずADHDであることを自覚し、自身の苦手なこと、それを克服するためにどんな工夫が必要なのかを考えました。Aさんの場合、今日やることや必要な持ち物をすべてリスト化することで、症状の大部分は改善されました。また、作成したリストや家族や同僚、上司にも一緒に確認してもらい、抜け漏れがあればその場で指摘してもらうことにしました。家族や職場の協力もあり、Aさんのミスは徐々に減っていき、落ち着きのなさも少しずつ改善されてきました。

症例② Bさん 28歳女性専業主婦の場合

Bさんは片付けが苦手で、掃除をし始めてもいろんなことが気になってしまい、作業が進みません。そんなBさんのある日の1日です。この日は掃除の途中に料理のレシピを発見して、掃除の途中で料理を始めてしまいました。料理をしている最中に足りない材料があったので、スーパーまで買い物に出かけます。買い物をして帰ってきたら子どもを幼稚園に迎えに行く時間だったため、お迎えに。その帰りに新しい雑貨屋さんがオープンしているのを発見し立ち寄り、帰ってきたら既に夜19時。すぐに夫が帰ってきましたが、掃除も洗濯も終わっておらず、夕飯もできていませんでした。こんなことが毎日のように続き、夫婦仲は最悪。Bさんは、自分が家を出て行った方が良いんじゃないかと考えるようになりました。

Bさんの子供時代も片付けが苦手で遅刻しがちで、宿題をよく忘れ、クラスメートとの会話では、場の空気を読めず会話に入ってしまい、仲間はずれにされることがあったということでした。

【治療結果】

Bさんは「ちゃんとしなきゃ」という気持ちが空回りしている状態でした。まずは手を抜けるところは抜いても良い、完璧じゃなくても良いとアドバイスをしました。そして、散らかったものを1回につき10個だけ片づけるという「10個片付け」を毎日行うことに。数を決めることで途中で気が散ることなく、最後まで片付けができるようになりました。毎日片付けを最後までやり遂げることにより家の中も綺麗になり、他の家事も徐々にうまくいくようになりました。

診断

受診に至った経緯を確認し、どういう困り感があるのかお聞きします。ADHD症状が12歳になる前に見られたか、複数の場面で見られるか、症状による機能水準の低下がみられるかなどが診断のポイントになります。症状が軽い場合、保護的な環境などにより見過ごされたものの、大人になり自身の責任で行動しなければならない機会が増えたり、人間関係が複雑になって対処できなかったときに問題が生じて症状に気づくことがあります。
ADHDは自閉スペクトラム症、うつ病、不安症、双極症など併存疾患の合併が多く、これらの精神疾患のためADHD特性に気づかれるのが遅くなることがあります。ADHDと診断するには精神疾患などを鑑別する必要がありますが、鑑別する疾患は併存しやすい疾患でもあります。
また、DSM-5においては,診断を支持する関連特徴に「欲求不満耐性の低さ,易怒性,気分の不安定性が含まれるかもしれない」と記載されていますが,情動制御の問題があることが診断基準には含まれていません。そのため、気分のゆらぎがある、双極症、境界性パーソナリティ障害などが鑑別するべき疾患としてあげられます。
また、不安症、うつ病でも、ADHDの様な症状を呈することがありえます。さらに軽度知的障害(境界域も含む)自閉症スペクトラムも鑑別するべきものです。
生育歴をしっかり聴いたうえで鑑別することが重要です。

当クリニックでは問診に加え、必要と判断された方には次のような検査を行っています。それらをもとに総合的に判断しています。

半構造化面接(CAADID)は成人に見られるADHD関連の症状を評価する目的で作成された検査です。パートIとパートIIに分かれパートIでは対象者の生活歴を簡潔かつ包括的に把握することにあります。背景情報/成育歴の記録、ADHD危険因⼦の有無の確認、併存障害のスクリーニング(基準E)をします。
PARTIIでは対象者がDSMのADHD基準A〜Dに該当するかどうかを判断することにあります。基準A~Dについて評価した後、小児期と成人期それぞれについて、ADHDの診断を行ったうえで、ADHDのサブタイプ(不注意優勢型/多動性−衝動性優勢型/混合型)を評価します。

WAIS-IVを行うことがあります。WAISは知的評価を行う検査です。ADHDの診断には知的評価が大切です。ADHDによくあるパターンとして作動記憶(ワーキングメモリー)の低下、処理速度の低下がみられることがありますが、他の精神疾患でもみられる場合もあります。

DSM-5になり自閉スペクトラム症の併存が認められる様になり必要な方にはADOS-2という検査を行うことがあります。ADOS-2は検査用具や質問項目を用いて、自閉スペクトラム症(ASD)の評価に関する行動を観察するアセスメントです。DSMの診断モデルに基づく判定が可能です。

ADHDだけではなく広く発達特性を知るためにMSPAという検査を行うことがあります。MSPAとは発達障害の特性の程度と要支援度の評価尺度です。2016年4⽉1⽇より保険収載されました。

ADHDの訴えは主観的なものが多いので、ADHDに伴いやすい以下のような特徴を把握しておくことも診断の助けになります。
例えば、協調運動機能の障害(手先の不器用、運動神経が苦手、特に球技がだめ)、感覚過敏、鈍麻視覚。、空間認知の障害、黒板の字をうまく写せない、似た文の区別がしずらい、空間と物の位置関係の把握が困難、鏡文字を書く、地図が読めず道に迷うなど

身体疾患でまれにADHDのような症状を呈することがあります。(甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸症など)

治療法

治療法については大きく分けて次の3つがあります。
① 心理社会的アプローチ
② 中核症状に対する治療
③ 2次障害を引き起こさない

まず適切な診断が前提になります。
心理社会的治療には次のようなものがあります。
1.自分の特性を知ること,その際,苦手なことばかりでなく長所(自分の強み)についても確認する。
生きづらさの理由の一つがADHDを含めた神経発達症にあると理解すると肩の荷が降りたと感じる人もいます。
気が散るということがマイナスに働くこともあれば、発想が豊かだと評価されることもありますし、ひらめきがあると評価される場合もあります。落ち着きがないというとマイナスな評価ですが、行動力があるともいえます。
2.ADHDについて知る。
3.自分でできる工夫を行う(対処法)
 ①刺激を少なくして気が散らないようにする。
 ②スモールステップで、実現可能な目標を設置する。
 ③一度の多くのことをやらない。
 ④後回しにしていることを自分だけで抱えていることがあるので、定期的に報告の場を設ける。
 ⑤To doリストの作成、ルーティン化、習慣化などで漏れを減らす。
4.環境調整する。
実際には職場に障害を伝えない人が多いとは思いますが,他人の力をかりることもできます。
例えばダブルチェックをしてもらうなど
5.セルフモニタリングについて
疲れやストレスに気づくには自分の心や身体の状態をじっくり観察する必要があります。ちょっとした気分や体調の変化に気づかず頑張りすぎて体調を崩してしまうことがあります。自分で自分の状態を把握することをセルフモニタリングと言いますが、神経発達症の人は苦手な方が多いと言われています。ストレスや体調の変化に上手に気づきそれに対処していくことが必要です。
基本的にまず心理社会的治療に取り組み,生活に支障がある場合に薬物治療を検討します。

薬物療法について
成人に使うことができる抗ADHD薬はアトモキセチン(ストラテラ)、メチルフェニデート徐放剤(コンサータ)、ガアンファシン(インチュニブ)の3剤です。抗ADHD薬を使うと不注意、多動性、衝動性が軽減し日常生活の困難が軽減することが期待されます。しかし 特性そのものを根治することはできず、あくまで補助的なものです。
①ストラテラ(アトモキセチン)について
 非中枢神経刺激薬です。
 脳の中の前頭前野の機能を高め そのために不注意・多動性―衝動性が改善する。
 依存性の心配がほとんどない。
 1日を通じて効果が期待される。
 併存精神疾患に対する影響がほとんどない。
 飲み始めに副作用(吐き気など)が出やすい。
 効果が出るまで時間がかかる。
 ジェネリックがあり、金銭的な負担が軽くなる。
②コンサータ(メチルフェニデート徐放剤)について
 中枢神経刺激薬です。
 脳の中の前頭前野や側坐核の機能を高め、不注意、多動性―衝動性が改善する。
 効果発現までの時間が短い。
 毎日の効果は服用してから12時間ほどであり効果のある時間と効果が切れる時間がある。
 副作用は頭痛,腹痛、食欲の低下、寝つきが悪くなる、てんかんの憎悪など。
 依存リスクがある。アルコールや薬物への依存がある人には処方するべきでない。
 ドーパミンの神経伝達を亢進させるので、統合失調症や双極性障害の疑いがある人には処方しにくい。
 運動性チックやトウレット症候群などチックがある場合,心臓に異常がある場合には使用しない。
 処方するにあたり患者様の同意を得てADHD適正流通管理システムに登録する必要がある。
 その際,第3者からの情報提供(通知表,連絡帳,母子手帳など)が必要になります。それらが見つからない場合には両親など日常生活を知っている人からの情報提供が必要です。
③インチュニブ(グアファシン)について
 非中枢刺激です。
 前頭前野の機能を高め(シグナル伝達を増やす)不注意や多動性―衝動性を改善する。
 効果発現まで時間は比較的短い。
 1日1回の処方。1日にわたり効果が持続する。
 副作用は眠気、頭痛、血圧低下、徐脈など副作用は投与初期に目立ちやすい。
 チックの人にも処方できる。

2次障害、併存疾患について
ADHDは精神疾患,神経発達症の併存率が高く、複数併存していることが多いと言われています。そのような場合ADHD 症状と併存疾患の症状をしっかり把握して、治療を行う必要があります。大人になると不注意症状が目立ってきますが、特に仕事に支障をきたし、自己否定感をもちやすく、2次的にうつや不安を生じることもありますので、周囲の理解,援助や自らの工夫、投薬などが必要な場合もあります。

福祉やハローワーク、就労移行支援との連携が必要な場合もあります。

参考文献

1)注意欠如・多動症―ADHD―の診断・治療ガイドライン第5版 じほう

2)齊藤拓弥 注意欠如・多動症(ADHD)の子どもから成人への連続性-最近の大規模コーホート研究の研究の結果から考える-精神神経誌 120(11);1005-1010、2018

3)大人の発達障害の真実 傳田健三 誠信書房

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