大人の発達障害について

以前、発達障害(神経発達症)は児童精神科医の専売特許で、成人を診る精神科医にはあまり関係がないものと思われていました。しかし、現在は、神経発達症という視点がないと、日常診療に支障を来すほどです。
外来にはうつや不安などを訴え受診し、その背景に神経発達症があるのではないかと思われる方が少なくありません。自ら神経発達症ではないかと来院する方も大勢います。
神経発達症の診断は、問診が基本ですが、ほとんどの患者さんがネットで情報を収集した上で来院するため、ネット上の情報に強く影響を受けていたり、認知バイアスの問題(自分の信念や仮説に合う情報を優先して集め、逆に矛盾する情報を無視する傾向など)や、過去の記憶の曖昧さがあります。
成人の方を診察していると、保護者の方に来て頂く機会が少なく、また来て頂いたとしても、かなり主観が入っていることが多いです。当初はうちの息子や娘には問題はないと強く否定されるかたもいます。
神経発達症の方は、メタ認知が弱く、客観視ができない、つまり、人から見た自分はどうなのかがわからないところがあります。
社会的カモフラージュを(注1)していて、一見するとわからない方もいます。
そのため、診断するには、お話をお聞きした上で、いくつかの心理検査を補助として行い、総合的に判断しています。
甲状腺機能低下症や睡眠時無呼吸症候群などでADHD様にみえることもありますので、生物学的な検査が必要になる場合があります。
また、受診時にはADHDではないか、ASDではないかとおっしゃることが多いのですが、発達特性(自閉スペクトラム症。ADHD、限局性学習症、発達性協調運動症など)は濃淡をもって閾値下の問題を含め複数存在することの方が多いです。
マルトリートメント、虐待などがみられることも少なくありません。
発達の特性以外に併存疾患(うつや不安など)があることも少なくなく、そのことによって神経発達症の問題が見えにくくなることがあります。
「診断」は単なるレッテル貼りではなく、今後の見通し、治療方針を決めていくためのものです。
ただ、このように複数の問題がありうるので、すぐに全容がわかるわけではなく、患者さんとの協力によって(できれば周辺の人の協力も得て)、少しずつわかっていくものです。後になってこういう問題もあったと気づくこともあります。閾値下の問題が生活の支障になっている場合もあります。
(注1)
社会的カモフラージュ(Social Camouflage)」自閉スペクトラム症(ASD)の人々が、周囲の期待に合わせて自分を「カモフラージュ」し、社会的な期待に応えようとする行動や戦略を指します。社会的カモフラージュは、ASDの人々が社会的状況に適応し、他者との違いを目立たなくするために行う行動を含みます。たとえば、非言語的な表情を真似したり、表面的な社交的なやりとりを身につけたりすることがあります。しかし、こうした行動は多大なストレスや疲労を伴うことが多く、場合によっては精神的な健康に悪影響を及ぼすこともあります。