双極Ⅱ型障害とは、うつ状態と気分が高揚する「躁状態」を繰り返す病気です。あまり知られていない病気である上に、ご自身での判断が非常に難しいので、ほとんどの患者さまはうつ状態を主訴として来院されます。
「躁状態」とは、気分が高揚したりおしゃべりになったり自身に満ち溢れるなど、一見すると良いことのように思われがちです。そのため、本人にも調子が良いくらいの認識しかなく、躁状態を主訴として来院される方はほとんどいらっしゃいません。しかし、急におしゃべりになったり、周囲に対して高慢な態度をとったり、高額な買い物をしてしまうなど、日常生活に支障をきたすケースも多くありますので、注意が必要です。
当院では、うつ病なのか双極性障害なのかをしっかりと見極め、それぞれに適した治療法を行います。まずはご来院いただき、お話を聞かせてください。
上述した通り、双極Ⅱ障害型の症状は、「躁状態」と「うつ状態」を繰り返します。この「躁状態」というのは、ご自身では判断がしづらいため、「うつ状態」を主訴として来院される方がほとんどなのですが、よく話を聞いていると、双極性なのか単極性(うつ状態だけが続くこと)なのかを見極めることができます。
躁状態というのは、異常なほど気分が高揚し、万能感が強くなります。自分は何でもできると思い込み、本来の自分であれば絶対にできないようなことを実行に移そうとします。単に積極的になるだけではなく、しばしば他人に迷惑をかけることがあるため、比較的診断しやすいとされています。比較的軽い症状のことを「軽躁状態」と言いますが、軽い症状だからと言って治療が簡単というわけではありません。むしろ、軽躁状態の場合は、躁状態よりもさらに診断が難しいため、適切な治療を受けるまでに時間がかかるケースが多くみられます。
例えば、下記の症状が時々あらわれる場合は、注意が必要です。
- 気分が著しく高揚する
- 自分が偉くなったように感じる
- 眠らなくても平気
- どんどんしゃべりたくなる
- 次々にアイデアが思い浮かぶ
- 不思議なくらい活動的になってじっとしていられない
- ちょっとしたことでイライラして怒りっぽくなる
上述した通り、双極Ⅱ型障害は非常に診断が難しい病気です。また、そもそも本人に病気であるという自覚がないケースも多く、症状が発症してから来院までに時間を要することもあります。
双極Ⅱ型障害は、実は周囲の人間の方が気づきやすいとも言われています。例えば、家族の、あるいは同僚の様子が最近おかしい……という場合は、ぜひ相談に乗ってあげたり、一緒に来院したりしてあげてください。
また、双極Ⅱ型障害は再発が非常に多い病気です。あるアンケートによると、約89%の方が再発を経験しており、そのうちの70%が入院による治療を必要としました。周囲の方が病気を正しく理解し、患者本人と協力することで、再発を防ぎ、効果的に治療を継続することが可能になります。
【産業医としての経験】
双極Ⅱ型障害が診断が難しいと言われている理由のひとつに、来院時の状態と普段の状態がまったく異なることが多いから、というのがあります。気分が高揚する「躁状態」の時にクリニックに来院される方はほとんどいらっしゃいません。ほとんどの方は気分が落ち込む「うつ状態」の時に来院され、現在の状態しかお話されません。そのため、医師は「うつ病」だと判断し、うつ病の治療法を適応します。
双極Ⅱ型障害を理解するには、まず普段の状態を正確に把握することが大切です。当院の院長が、ある企業の産業医としての勤務していた時、職場での様子と医師にかかる時に様子が違うことで、双極Ⅱ型障害だと分かったケースもありました。
クリニックでしか勤務経験のない医師は、しばしばこの事実を見逃しがちです。産業医としての経験を生かし、できるだけ来院された患者さまの普段の様子を詳細のお伺いすることで、適切な治療を行うことを心がけています。
Aさんは、ある日突然躁状態となりました。最初は会社で、大声でいろんなことを話し始めるようになりました。その後、症状はエスカレートし、ついには怒り出して上司と大喧嘩した結果、会社をやめると言い出しました。会社をやめてしまった後、株に手を出し、結果大損してしまい、気が付くとAさんはすべてを失ってしまいました。Aさんは、自分の言動を非常に後悔していましたが、なぜそんなことをしてしまったのかまったく分からないそうです。
【治療結果】
Aさんはすべてを失った後、うつ状態で来院されました。しかり話を聞くことで、これは双極Ⅱ型障害であると診断。まずは薬物療法で気分がある程度安定するのを待ちます。薬物療法と並行して、セルフモニタリングで日々の気分を数値化すること、それぞれの数値が出た時の対処法などをアドバイスしました。これを毎日繰り返すことにより、徐々にトラブルを避けることができるようになり、また薬の効果もあり気分が安定するようになりました。勤めていた会社にも事情を話し、Aさんは無事会社に復帰することができました。
Bさんは最近元気がない、何もやる気が起きないということで来院されました。掃除や洗濯、料理など、やらなければいけないと分かっているのにどうしても体が動かない。自分はダメな母親だ、消えてしまいたいと思うようになり、ご主人と一緒に来院されました。しかし話を聞いてみると、実は先週まではとても元気でした。眠らなくても平気なので夜更かしして編み物をしたり、そのまま買い物やヨガに出かけたりととても活動的で、ご主人も元気すぎじゃないかと心配されるほどでした。そこで、双極Ⅱ型障害であると診断し、治療を開始しました。
【治療結果】
Aさんの時と同様、薬物療法を続けながら、日々の気分を数値化するセルフモニタリングを行ってもらいました。Bさんの場合は躁状態の症状が比較的軽度だったため、うつ状態と躁状態の時で、なるべく生活リズムが変わらないように過ごすことを心がけました。ご家族の理解もあり、徐々に気分も安定し、気分の数値化をしなくても自分の気持ちをコントロールができるようになりました。
暴れまわって手がつけられない、高額な買い物をどんどんしてしまうなど、症状がひどい場合は入院というケースが考えられます。当院では、入院の必要性がない軽度の症状の方の治療を行っています。
まず、有効な治療法としては薬物療法が挙げられます。気分安定薬や抗精神病薬などで気分をある程度コントロールできるようになります。
その他に当院では、薬だけに頼るのではなく、自分自身でも気分のコントロールができるようになるため、セルフモニタリングを取り入れています。まずは毎日の気分を、下記のように数値にあらわしてもらいます。
+5 |
妄想あり、物にあたる |
+4 |
躁状態、判断力低下、大声で叫ぶ |
+3 |
軽躁状態、気分高揚、判断力は保たれている、早口になる、まくしたてる |
+2 |
活動的、せわしない、じっとしていられない、活力上昇、無言になる、一人になりたくなる |
+1 |
愉快、元気、むかむかする |
0 |
異常なし |
-1 |
低調、落ち込み気味、元気なし |
-2 |
悲しい、涙もろい、悲観的、ふさぎ込む |
-3 |
うつ状態、活動低下 |
-4 |
動けず、絶望 |
-5 |
死にたいと思う |
さらに、それぞれの数値の際は、どういったことに気を付けたら良いのかをアドバイスします。これを毎日繰り返すことにより、徐々に「こういう気分の時はこうすれば良い」ということが習慣化され、日常生活でのトラブルを避けられるようになります。
また、双極Ⅱ型障害の治療には、周囲の方の協力が必要不可欠です。可能であれば、ご家族や同僚など、普段一緒に過ごす機会が多い方にも話を聞いてもらうことをお勧めします。特に、数値の振れ幅が大きい時は、ご自身で分かっていてもコントロールできないこともありますが、周囲の方のサポートがあれば乗り越えることができます。