はじめに、不安とは漠然とした未分化の恐れの感情を言います。恐怖(fear)がはっきりした外的対象によるものであるに対し、不安には対象がありません。その不安には病的なものと正常範囲のものが想定されます。
病的不安 |
正常範囲の不安 |
- 理由がはっきりしない
- 表現しにくい
- 共感しにくい(わかってもらえない)
- 我慢しにくい
- 長く続く
- また来ないかという不安が続く
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- 理由がある
- 表現できる
- わかってもらえる
- 長く続かない
- いったん去れば気にならない
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病的不安と正常範囲の不安の間には大きなグレーゾーンがあると思いますが、パニック発作は、発作性の病的不安です。発作性の不安発作には他に社会状況に誘発された不安、PTSD(外傷後ストレス障害のフラッシュバック)などがあります。
ある日、突然、「胸がドキドキして冷や汗がとまらない」などと理由のない発作に襲われ「また、あの怖い発作がおきたらどうしよう」(予期不安)という不安が持続し、日常生活に支障を来す障害をパニック障害と言います。
パニック発作を初めて経験したとき、あまりの発作の激しさに救急車で病院へ運ばれることもしばしばあります。激しい発作が起こっているにも関わらず、病院で検査をしても検査には特に異常は認められず、いろいろな病院を転々とし、その間、適切な治療が受けられないために、症状を悪化させる場合も少なくありません。
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動悸・心悸抗進・または心拍数の増加 |
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発汗 |
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身震いまたは発汗 |
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息切れ感または息苦しさ |
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窒息感 |
6 |
胸痛または胸部の不快感 |
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吐き気または腹部の不快感 |
8 |
めまい感・ふらつく感じ・頭が軽くなる感じ・または気が遠くなる感じ |
9 |
現実感喪失(現実でない感じ)、離人症状(自分自身から離れる) |
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コントロールを失うことに対する、また気が狂うことに対する恐怖 |
11 |
死ぬことに対する恐怖 |
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異常感覚(感覚麻痺またはうずき感) |
13 |
冷感または熱感 |
1度パニック障害の症状があらわれると、「あの恐ろしい発作がまたおきるのではないか」という不安感が必ず伴います。発作を繰り返すごとにこの不安がさらに強まり、「またおきるのではないか」と不安になって悪循環となりパニック発作を誘発させることにもなります。これを予期不安と言います。
予期不安が続くと、やがて電車に一人で乗れなくなったりして、生活が大きく制約されることがあります(広場恐怖)。
広場恐怖というのは広場が怖いというのではなく、発作がおきるのが怖くて「特定の場所や状況」を避けるようになることです。広場恐怖の代表例としては、電車や車、人ごみ、美容院、歯科、地下道などが挙げられます。それが続くと二次的にうつ状態になることがあります。
広場恐怖のないパニック障害もあります。
パニック障害はもともと1960年頃、米国のクラインという精神科医が、当時「不安・恐怖反応」と診断していた一群の患者にイミプラミンといううつ病の薬を投与したところ、10人中10人ともいわゆる急性の不安発作が消えてしまったのを観察しました。これが研究の出発点となり、1980年にDSM-III (米国精神医学会の分類)で他の不安障害と分離して「パニック障害」という病気としての概念が公にされました。ですから、パニック障害というのはある種の薬が著名に効果を現したことから他の病気から区別された病気です。
したがって、うつ病にも親和性があります。
またDSM-IIIでは「パニック発作」として定義され、発作の回数が規定されました。新しく改定された定義され診断基準(DSM-IV)では、むしろ予期不安や回避行動の方に重点が置かれるようになりました。パニック障害は数%の頻度で起こる病気ですが、上述したようにすぐに診断されず、いろいろな病院で検査を繰り返すことも少なくありません。
薬物療法の目的はパニック発作の頻度を減少させ、予期不安を減少させ、随伴する抑うつ症状を軽減することにあります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬、SSRIなどを使います。
また、広場恐怖には薬だけでは十分な効果が得られませんので認知行動療法を組み合わせる必要があります。これらの症状の背景に何らかの対人関係上の問題が潜んでいる場合には、心理的なアプローチも欠かすことはできません。
また、パニック障害は、ひどい疲れ、カフェイン、炭酸などで悪化することがありますので、生活習慣を整えることも必要です。